『 春を待つ頃 ― (2) ― 』
カタン。 窓を少しだけ開けてみた。
夜風に 金色の髪が揺れる。
「 ・・・ ああ 風もそんなに冷たくないのね 」
フランソワーズは 思いっ切り深呼吸をした。
ふう −−−−− ・・・・ !
つうん、と冷えた夜気が咽喉を通ってくる。
まだまだ気持ちがいい、などと思える気温ではないのだが
彼女が生まれ育った地よりは ずっと温かい。
「 ここの空気 ・・ 冬の夜でも優しいのね。
あ ・・・ お星さまがきれい〜〜〜
ふふ 海の、波の音も聞こえるのよねえ ・・・ 」
夜目になれてくれば 周りの景色も見えてきた。
「 ああ あそこに大きな樹があったわね 元気そう。
ジョーはちゃんとお庭の世話もしているのね 」
ちかり ちかり。 星たちが瞬き返してくれる。
「 博士もジョーも 優しい ・・・ 優しすぎるわ。
わたし ・・・ 逃げてきたのに・・・
故郷で暮らしますって宣言ひてここから出ていったくせに ・・・ 」
ぽとり。 涙が落ちた。
「 ホントは あの街が大好きなのに ・・・
あの街で生まれ育って・・・ ずっとずっと暮らしたいのに 」
それなのに ここに来てしまった・・・
わたしはもう あの街に住むことはできないってわかったから 」
この岬の家で暮らすのは 楽しい。
< 家族 > と一緒だし、いろいろ隠す必要もない。
特異な身体であること を冗談ネタにもできるほどなのだ。
「 お家もキレイになってるわ ・・・ ジョー、優秀な
ハウス・キーパー なんだわ。
日本の食べ物はどれもオイシイし ・・・
明日はレッスンができるところ、探してみるわ。 」
ふうう ・・・・
満足しているはずなのに ― 溜息が漏れてしまう。
「 ― でも ここはパリじゃないのよ ・・・
ああ わたしったら なんでこんなトコまで来ちゃったの?
なんで あの大好きな石畳の街を 捨ててしまったの・・・ 」
つつつ ・・・ また 涙が一筋 頬を伝う。
「 わたしの故郷 ― なのに・・・ 」
解放され、追手に神経を研ぎ澄ます必要がなくなった時
彼女は 飛び立つ思いで故郷に戻った。
街は そのままだった。
相変らず無関心な顔で 来るものは拒まない。
そして同時に 去るものも追わないのであるが・・・
「 うふふ この空気よ この風よ
ああ これがわたしの生まれ育った街・・・
これからも ずっと生きてゆく街 なのよ 」
フランソワ―ズは ただただ嬉しくて 上機嫌で
ごく普通のありふれたアパルトマンを借りた。
「 普通に生きるわ ごく当たり前のパリジェンヌの一人になって
平凡に暮らすの。 ふふふ 素敵に殺風景なお部屋ね。
明日、いろいろ買ってこようっと 」
簡素なベッドにもぐりこみつつ、彼女はわくわくしていた。
「 ふうん ・・・ まずはマルシェ、行ってみよ 」
翌朝、熱いカフェ・オ・レで朝食を済ませると
フランソワーズは 早速家を出た。
「 あ ちょっと冷えるかも ・・ スカーフ・・・ 」
お気に入りの大判のスカーフを肩からかけた。
「 え・・・っと まず生鮮食品〜〜っと 」
朝方でも 結構人々が行き交っている。
「 あら 混んでる? わあ お野菜いろいろある♪ 」
人々の後ろからこっちの店 あっちの店 と見て歩く。
「 ・・・ あ トマト 美味しそう! いくらかなあ
え ・・・ ゆうろ?
」
一瞬 値札に首を傾げてしまった。
・・・いっけない。 FFr ( フランス・フラン ) は
もう通用していないんだっけ・・・
「 ?? 」
財布を開けてからぼんやりしている彼女に 周囲の客は迷惑そうな
そして 不躾な視線を投げかける。
「 ・・・ あ ご ごめんなさい 」
咄嗟に口から出てしまった 日本語 に 周りはますますドン引きだ。
「 −−−− 」
店の売り子も もじもじしている彼女をすっとばし
どんどん他の客をさばいてゆく。
あ ・・・ みんな 急いでるの?
マルシェの雰囲気は なんだかせかせかしたものになっていた。
「 ・・・ トウキョウ、そうね シンジュク みたいよ?? 」
そういえば ここを歩きつつ、何回もヒトとぶつかったり
追い抜かれたりしていた。
・・・ わたし 遅い ・・・・?
なにも買わずに マーケットを出た。
行き交う人々が皆 こちらを見ている ― と感じた。
視線が 痛い。
この服 ・・ ヘン ??
二ホンで買った服なんだけど・・・
! そういえば あの店の店員も
じ〜〜〜っとわたしのこと、見てたわ
・・・ 好きなの、選んだんだけど
やっぱり ヘン なの・・?
! 機械が入った身体 だから・・・?
わかってしまう・・・の?
自然に俯き 大通りを避けてしまう。
この地域はほぼ土地勘があるのだけれど
意識的に陰を拾って歩いていた。
「 気分、変えたいわ ・・
旅行しようかな ・・・ ドーヴァー の方まで 」
自然に中央駅に足が向いていた。
ガヤガヤ ザワザワ カツカツカツ ・・・
耳の機能はもちろん 通常はオフにしてある。
しかし 常に周囲の音には注意を向けてしまう。
でも ・・・ こんな大騒音の中って
かえって 楽。
雑音の壁 が 護ってくれる気がするの
フランソワーズは 駅前で買った小ぶりのバッグに
最小限の着替えも買い すっかり旅気分になっている。
「 え〜〜っと チケット売り場 は 」
久々に来た中央駅構内を探している間に 人波はどんどん増えてきている。
地方からの列車が到着したらしい。
騒めきの中から 一際大きな声が聞こえた。
ああ フランソワーズ !!
フランソワ―ズ ! ここだよっ
お〜い フランソワーズ 〜〜〜
ああ ミシェル ミシェル〜〜!
「 !? ・・・ ! 」
知らない誰かが 知らない誰かを 呼ぶ声。
両方とも全然聞き覚えもない声だ。
姿はわからないけれど 声だけが響きわたる。
でも 行き交う人々は無関心だ。 こんな風景 日常茶飯事だから・・・
知らない誰か と 知らない誰かは 抱き合っている。
それも 誰の関心も引かない。 よくあるコトだから。
それなのに ―
知らない 知らない そんなヒト、しりません
フランソワーズ? 知りません。
― 彼女は 行方不明になり 死にました。
フランソワーズは思わず身を固くし、俯き
さささ・・・っと その場から逃げ去った。
「 ・・・・ ! なんで 逃げる必要があるのよ 」
嫌な冷たい汗を拭い 息苦しい胸を押さえ 物陰で立ち止まった。
「 アンタのことじゃないのよ?
・・・ アンタのことなんか もう ・・・だれも覚えてないわ 」
逃げたい ・・・ !
ああ ここから消えてなくなってしまいたい
俯いた顔から涙がぼとぼとと足元に落ちる。
コートの襟を高く立てていたので 誰も彼女の涙に気づくひとはいない。
わたしって ― なんて弱虫なの ・・・ !
なにを怖がっているのよ?
もう こんなわたし いや!
そうよ! ええ、フランソワーズは死んだの!
フランソワーズ は 死んだ の。
そう思った時 ―
「 ! 街が変わったんじゃない。 変わったのは
変わってしまったのは ― わたし ・・・
わたし なんだ ・・・ 」
先ほどの涙は もうすっかり乾いていた。
身体の中心を すうすうと風が通り抜けてゆく。
からだ中のほんのすこしの温かさが 干上がってしまった ・・・・
「 こんなじゃ ・・・ 踊れない。
なんのために 故郷に帰ってきたの?
ああ ああ わたし・・・
こんなじゃ この街には住めないわ。
わたし どうしたらいいの 」
なにかから逃げるみたいに 駅を出て裏通りのカフェに入った。
知らない区域の知らない店だが 少しはほっとする想いがした。
湯気のあがる オ・レ、カップを両手で抱いた時、
また 涙が滲んできた。
「 ふ ・・・ ふふ・・・ まだ 水分が残ってたのかしら・・・
機械の身体でも 干上がる って感じがあるのね 」
自嘲気味に呟き熱い液体を少し、口に含んだ。
あ。 ・・・そう か
― いっそ 全然知らない土地に行った方がいい。
不思議とするすると結論が出てきた。
「 知らない土地 ・・・ そうよ わたしのことを全然知らないヒト達
がいる所に行けばいいのよ。
そして 別のニンゲンとしてひっそり生きてゆければ ・・・ 」
不意に 湧き出る泉のごとく、ある風景が浮かんだ。
海辺の邸。 明るい光の下、波の音が始終きこえる家。
吹く風は いつも優しい。
そして 優しい茶色の瞳の青年が いる、家。
「 ! 帰ろう ・・・ ! あの家へ!
― わたし まだ行ける場所が あるんだわ 」
熱いカフェ・オ・レ入りのカップを 静かに取り上げた。
「 ― ありがとう。 アナタの香で 落ち着いたわ。
わたし 行き先が決まったわ。 」
ひゅるん −−− パリの街角には まだまだ冬の風が吹く。
「 バイバイ パリ。 次に来る時には きっと笑顔で来るから。
楽しみにしていて頂戴。 」
飲み乾したカップを置き フランソワーズは立ち上がる。
コツコツコツ ― 彼女は 前進し始めた。
― そして 極東の島国にやってきた。
「 おかえり〜〜〜 フランソワーズ ! 」
ジョーは それこそ満面の笑みで迎えてくれた。
「 お帰り。 」
博士の大きな温かい手は しっかりと彼女の手を包みこんでくれた。
あ ・・・ ここも わたしのウチ なんだ・・・
緊張が一気に解け ― 身体の奥の奥までじんわり・・・
温かさが滲み込んでゆく。
「 あ 疲れた? ゆっくり休んで。
今晩はぼくが得意メニュウ、作るからさ 」
ジョーが 相変わらず気を使ってくれる。
「 あら 平気よ? ねえ わたしだって 」
「 あは ごめ〜〜ん 」
「 ねえ 買い物に行きたいの。 ほら この坂の下に
商店街があるでしょう? 」
「 うん! それじゃ 自転車で行こうよ ちょっと待ってて〜〜 」
とりあえずスーツケースから マフラーと帽子、手袋を引っぱりだし、
ジョーの自転車の後ろに 座った。
シャ −−−−−−
銀色の自転車は 軽快に海岸通りを疾走してゆく。
目の前の背中にしっかりと掴まる。
うきゃ ・・・
二人乗りって ゆっくりのんびりじゃないの?
昔 そうやってデートもしたけど・・・
このスピードって なに〜〜〜
戦闘中とは全然違った緊張感に フランソワーズはわくわく・どきどき。
マフラーと帽子が飛ばなかったのは 奇跡だと思った。
「 ついたよ〜〜 まず どのお店にゆく? 」
「 ・・・ えっと ね 」
ジョーは 平然として?ごく普通の様子で 案内してくれた。
わ あ ・・・ 日本のマーケット〜〜
お野菜 に 果物 ! こんなにあるの???
のんびりした町で出合う、暗い色合いの髪と瞳を持った人々は
皆 穏やかで優しかった。
ジョーは すっかり地元に溶け込んでいて 地元の人々と
笑顔で談笑している。
そして < ぼくのカノジョ > だと紹介すると、
誰もが よかったね〜〜〜 と 喜んでくれるのだ。
「 あ あの ・・・ ごめん ・・・ 」
買い物を終え、商店街を出たとき、 ジョーが小声で言った。
「 え?? なにが。 」
「 なにが・・・って。 そのう〜〜 ぼくのカノジョ なんて
言ってしまって ・・・ 迷惑だったろ 」
「 迷惑だなんて ! そんなこと 絶対にないわ 」
「 え そ そう? 」
「 わたし! ・・・ 嬉しかったの。 」
「 え ・・・ 」
「 ジョーも 博士も。 そして 町のヒト達も
皆 ・・・ とっても 温かくて親切で・・ 」
「 ・・・・ 」
ジョーは 黙って、ただにっこりと笑った。
ああ ・・・ この笑顔 ・・・ !
彼の押す自転車の脇を歩きつつ フランソワ―ズは零れそうになる
涙を 散らすのに苦心してしまった。
あんなに決心して 前を向いて行こう と < 帰って > きたはずなのに。
ふ・・・っと弱気が出てしまった。
だって ・・・ 皆 優しい 優しすぎる・・・
だらしない、弱虫 ! って 言われる方が
気が楽かも・・・
だって その通り なんだもの。
わたし 故郷から逃げてきたのよ!?
「 フラン〜〜 今晩のご飯 どうする? 」
「 あ あのね、さっき買ったお肉! あのカタマリを
セロリやタマネギと一緒にオーブンで焼いてみたいの。 」
「 うわあ〜〜〜 美味しそうだね ! 」
「 ふふふ 任せて。 あのね、これ、わたしの母の得意料理だったの。」
「 へえ〜 フランスのお袋の味 かあ 」
「 あ 日本ではそう言うの? 」
「 ウン。 じゃあ ぼく、サラダとか担当するね 」
「 お願いします 」
楽しいおしゃべりをしつつ 二人でゆっくりと坂道を登っていった。
ふふ ・・・ きっと傍からみたらカップルね
・・・ そう思われても いいけど
あ ジョーは イヤかもね ・・・
ジョーだって 好きな女の子とかいるでしょうに
ごめんなさい ジョー
自分の前を ゆっくり行く背中を眺めつつそっと呟いた。
翌日から 二人で家事を分担することにした。
「 え ぼくがやるよ 」
「 わたし この家の一員よ? 分担しましょう。
ジョーだっていろいろ・・やりたいこと、あるでしょう? 」
「 でも きみ ・・・ また バレエのレッスン 始めるだろ? 」
「 ええ。 だからジョーもやりたいこと やって?
晩ご飯作りも 当番制にしましょうよ。 」
「 ・・・ いいのかな 」
「 いいの。 そうしましょ。 」
「 そっか ぼく ちょっとできたらバイト したいんだ 」
「 あら お金がいるの? 」
「 あ〜〜 資金の面もあるけど 経験したいっていうか・・・ 」
「 ジョー。 そんな心配はいらないよ 」
リビングで新聞を広げていた博士が 声をかけてきた。
「 博士 ・・・ 」
「 すまんな、聞こえてしまったので ・・・
ジョー。 フランソワーズも 必要なお金はどんどん言いなさい。
遠慮はいらんよ。 資金とあといろいろ小遣いもいるだろう?
これは きみたちへの出資だからね。 」
博士は 二人に封筒を差し出した。
「 フランソワーズ。 早速銀行口座を作ろうな。 定期的に振り込まれる
ようにするから カードも必要じゃろう。 」
「 え・・・ 」
「 ジョー。 進学資金の心配はいらんよ。 」
「 あ〜〜〜 博士〜〜 ぼく、経験したいんです、そのう ・・・
バイト ・・・ 」
「 ああ そうなのかい? 負担にはならんか? 」
「 博士〜〜 ぼくを誰だと 」
「 はは 体力面だけじゃなくて精神面も さ。
忙しくなったら受験勉強に差しさわりがでるぞ 」
「 あのう ぼく ・・・ 大学に行きたいんです
大学によっては聴講生とかあるって聞きました。 」
「 それはいい! 是非そうしたまえ。
しかし レポートとかそれなりに忙しいぞ。 」
「 普通にバイトして 勉強します。
皆 そんな風にしているでしょう?
ぼく 学資を出して頂けるって それだけでもう・・・最高っす! 」
「 そうか ・・・ それならやってごらん。 」
「 はい! 」
「 ジョー。 それなら余計に家事はわたしがやります。
っていっても 食事の準備くらいだけど 」
「 だ〜〜めだよぉ〜〜 フランだってやりたいこと、やる! 」
「 ・・・ 」
「 一緒に住んでるんだもん、分担しよ! 」
「 そうじゃな。 ワシも庭掃除やら そうじゃ 地域の活動には
積極的に参加しておくよ 」
「 博士〜〜 博士こそお忙しいのに 」
「 ふふふ〜〜 ワシを誰だと思ってるんだ?
お前たちよりずっと余裕があるぞ。
こういうのを 年の功 というのさ。 」
― というわけで 夕食の準備は当番制とり そして
「 わたし、 皆の < お弁当 > 作ります。
いえ 作らせてください。 ジョー おにぎり も作るわよ 」
「 え ・・・ マジ?? 」
「 はい。 マジです。 」
「 うひゃあ〜〜〜〜 ♪ フランが作ってくれる弁当なら
なんでも大歓迎さあ〜〜
あ フランのサンドイッチ、めちゃウマ だから〜〜
ぼく、お握り とかに拘らないよ 」
「 ありがと。 では サンドイッチ 時々 お握り で どう? 」
「 最高♪ 」
「 ふふふ・・・ じゃ お互いにがんばりましょ♪ 」
「 うん! ― 握手! 」
「 え ふふふ はい。 」
ぱっと差し出された大きな手を 白い手がきゅ・・っと握ってくれた。
うっぴゃ〜〜〜〜♪ らっき〜〜〜〜
・・・ああ 温かい手 ね ・・・
岬の家での生活が ゆったりと始まった。
ガヤガヤ ワイワイ カタカタ ゴトゴト
夕方の海岸通り商店街は 結構賑やかになる。
それぞれの店先に 人々が集まり、笑い声やら威勢のいい話声も響く。
「 えっと あとは・・・ 八百屋さん! 」
フランソワーズは 両手に荷物を下げて足早に道をゆく。
「 らっしゃ〜〜い ああ 岬の金髪美人さん♪ 」
飛び込んだ八百屋の店頭で オヤジさんが歓迎してくれた。
「 こんにちは! あの〜〜 トマト、ください。 」
「 おう、いくついるかな 」
「 あ・・・できれば箱でほしいんですけど 」
「 箱で? ありがと〜 じゃあ 長持ちするよう固そうなのにするかい? 」
「 あ いえ 完熟 っていうんですか?
真っ赤で柔らかいのがいいんですけど ・・・ 」
「 え いいのかい? あんましもたないよ? 」
「 はい。 ブイヤベースにつかいます。 」
「 ・・・ ぶいや べ〜す・・・? 」
「 ええ お魚や貝をトマトやセロリで煮込むんです。 」
ほら・・・と 彼女は買ったばかりの魚屋の包を見せた。
「 お 魚正んとこのじゃね〜か へえ〜〜〜
魚と貝を トマトでねえ・・・・ あ お国の料理かい? 」
「 ええ そうなんです。 こちらのトマトは本当に美味しいし。
お魚も新鮮でしょ? きっとすご〜〜〜く美味しくできるわ 」
「 へ え・・・ 」
「 岬の金髪さん オバサンにも作り方 教えてくれる? 」
いつのまにか 八百屋のおかみさんも出てきていた。
「 え 教えるなんて ・・・ わたし、母から習っただけなんです 」
「 へえ〜〜 お国のお袋の味かい そりゃいいね〜〜 」
「 うん うん。 ほら えびちり ってのがあるよね。
魚をトマト味で煮込むってのも 美味しそうだ 」
「 ウチの息子、ケチャップ狂いだからやってみるわ。
ねえ お嬢さん あとはセロリをいれるの? 」
「 あ なんでも ・・・ ニンニクや玉ねぎなんかもいれます 」
「 やってみるわ ありがとう〜 ぶいやべ〜す ね? 」
「 はい。 ・・・ 家庭料理ですけど 」
「 あはは アタシ達が作るのは み〜〜んな家庭料理だもの。 」
そうよね〜〜 そうね あはは うふふ・・・
八百屋の店頭で 柔らかい笑いが広がった。
「 若いヒトが来てくれて嬉しいよ 」
「 そうだねえ よろしくね〜 」
「 はい! あ あのう ・・・ 教えてください。 」
「 なんだい 」
「 あの・・・ こんにゃく って。 どうやって食べるのですか?
ジョー いえ 家族が食べたいって・・・ 」
それはね まかせて! 四方八方から声が飛んできた。
ここは ・・・ 皆 あったかいわ
マフラーでぐるぐる巻きだけど ココロの底から
ぽ・・・っと 温かいものが湧いてきた。
わたし。 生きてる。 生きてゆける わ !
ふんふん ふ〜〜ん♪ るるるる ららららぁ 〜〜〜
両手にぱんぱんの買い物袋を下げ フランソワーズは
スキップしたい気分で 家路についた。
「 ただいま〜〜 あら ジョー もう帰ってる・・・ 」
玄関には ジョーのスニーカーが隅に並べてあった。
「 もどりましたあ〜 」
よいしょ・・っと荷物を持って リビングへのドアを開けた。
フランソワーズ ! お帰り〜〜
声と一緒にジョーがキッチンから飛び出してきた。
「 ただいま・・・ ジョー、今日は早かったのね 」
「 ウン。 あの〜〜 」
「 ? 」
「 誕生日 だよね! これ・・・ じゃ〜〜〜ん♪ 」
「 え?? まあ ケーキ! 」
ジョーは 赤い顔をしつつ 大皿を差し出した。
大きめのホール・ケーキで 生クリームが丁寧に塗ってある。
そして真ん中には イチゴの山 !
「 わあ・・・ すご〜〜い・・・ 」
「 えへ きみ、いちご 好きだよね?
これ・・・ 全部 ウチの温室のイチゴなんだ 」
「 そうなの?? すごい〜〜 美味しそう!
え もしかしてジョーが作ったの? このケーキ・・・ 」
「 ウン ネットで調べてさ 動画とかも見て なんとか
美味しい! ・・・ と思うよ ・・・ 」
「 美味しいに決まってるわよ。 食べましょうよ
コーヒ―を淹れるわ。 」
「 これは〜〜 デザートです。 晩ご飯の後、博士も一緒に
食べるのです。 」
「 はあい。 じゃあ とりあえずコーヒー 淹れるわ。
あ 美味しそうなクッキー 買ってきたの 」
「 わお♪ あ キッチン、片すね〜〜 」
二人はぱたぱたと動き回り ― やがてまったりとオヤツの時間となった。
「 ・・・ ジョー わたし ね 」
「 ん? 」
「 わたし ・・・ 故郷から逃げてきたの。
生まれ育った街から 」
「 ・・・ どうして。 あ 聞いていい?
」
「 うん。 わたし もう昔のわたしじゃないから・・
普通のヒトとしては 生きてゆけない・・・
ふふ・・・弱虫でしょう? 」
「 なんで。 」
「 え ・・・ なんで って・・・ 」
「 いいじゃん フラン。 ここで この家に住む オンナノコ に
なりなよ ?
ニッポンの ふらんそわーず・あるぬーる さん にさ 」
「 ・・・え 」
「 ぼくもさ 岬の家の島村ジョー になったんだもん。
きみもさ〜 ここで 別のヒト で生きればいいよ
・・・ あ この国 暮らしにくい? 」
「 ううん ううん ! すごく暮らしやすい〜〜
」
「 なら いいじゃん。 バレエ・スタジオ も探そうよ? 」
「 え ええ ・・・ 」
「 ほら〜〜 そんな顔、しないで
」
「 ・・・ わたし また踊れるかしら 」
「 大丈夫! きみの笑顔があるもん。 」
「 ・・・ そう ・・・? 」
「 そ! ねえ 皆でさ、この家で暮らそうよ 」
「 ・・・ いいのかしら 」
「 いいに決まってるって!
あ。 あのね。 町で人々が 皆がきみのこと、振り返るのは ね! 」
「 ・・・ 」
「 きみが あんまりキレイだから なんだよ! 」
「 え ・・・ ウソ 」
「 ウソじゃないってば。 」
「 でも わたし、そんなにキレイじゃないわ。 」
「 キレイだよ〜 笑ってくれたらもっときれいさ 」
「 ・・・・ 」
ああ このヒト ・・・ 温かい。
・・・ 彼の側で 過ごしたい な ・・・
ほんわり笑みを浮かべたフランソワーズを ジョーもにこにこ・・・
眺めているのだった。
― まだ 春も浅い日の 二人。 物語は始まったばかり
************************* Fin.
**************************
Last updated : 01,21,2020.
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********** ひと言 *********
どこであっても 自分自身の居場所 を 見つけるために
ヒトは 生きてゆくのかもしれません ・・・・
フランちゃ〜〜ん ちょこっとしか書けなかったけど
お誕生日 おめでとう〜〜〜 (#^.^#) 1月24日 ☆